岩渕薬品株式会社

岩渕薬品株式会社
創業100 周年、未来を託す事業承継

 2014年(平成26年)、岩渕薬品株式会社(以下、岩渕薬品)は創業100周年を迎えた。代表取締役社長の岩渕康昭氏は、本社機能を有する物流センター内の社長室で、いかにして次の100年に向けて事業を承継し、発展させていくかについて思案していた。

岩渕薬品の自動倉庫
自動倉庫

 岩渕薬品の歴史は、1914年(大正3年)に初代・岩渕剛氏が10種類の処方薬を特許出願し、千葉県・佐倉の地に薬局を開業したことから始まった。戦後、二代目・岩渕好弘氏の時代になって、東京の製薬メーカーから薬を仕入れて千葉の病院に納品するという医薬品卸としての立場を確立した。また、1961年(昭和36年)に始まった国民皆保険の導入によって、国民に医療が身近になったことが同社の追い風となった。その後、1991年(平成3年)に現社長の三代目・岩渕康昭氏が事業を引き継ぐ時代になると、医薬品卸業界の厳しい再編が行われるようになった。同業種間のM&Aが進んだ結果、創業家が経営を行い、他資本が入らない独立系卸は関東で同社のみとなった(付属資料 1:岩渕薬品の沿革)。

岩渕裕樹氏(左)、岩渕琢磨氏(右)
岩渕裕樹氏(左)、岩渕琢磨氏(右)

 創業100周年を迎えた同社の売上高は738億4千万円、経常利益は6億1千7百万円に上った(2013年度実績)。本業の医薬品卸事業を支えるため、調剤薬局事業、不動産事業、健康 食品事業など、新規事業の拡充にも力を注いでいた。副社長を務めるのは、康昭氏の弟・岩渕明弘氏であった。また、康昭氏の長男・岩渕琢磨氏は3年前に、次男・岩渕裕樹氏は4年前に 同社に入社し、それぞれが社内改革や新規事業などの業務を担いながら、会社の未来を構想していた。

三代目・岩渕康昭氏
三代目の岩渕康昭氏

 医薬品卸業界の厳しい合併・再編の時代に舵を取り、独立系卸としての道を選択した 康昭氏は「2人とも重要なポジションにあると思う。2人にはしっかり自らも勉強しながら、 さらに会社を引き上げていってもらいたい」と語った。2007年(平成19年)から、超高齢社会となった日本において、人々の命や健康に関わる事業を展開する同社の担う役割は大きい。さらに、ジェネリック医薬品の台頭や国民医療費の国庫負担増大問題など、経営を取り巻く環境の変化が目まぐるしい昨今、次の100年に向けてどのように事業を承継し、発展させていくのかについて戦略を練っていく必要があった。

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本ケース教材は、NPO法人ファミリー・ビジネス・ネットワーク・ジャパン、慶應義塾大学飯盛義徳研究室の共同研究「長寿企業の経営革新」の一環として、慶應義塾大学総合政策学部准教授の飯盛義徳の監修のもと、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)伊藤妃実子、同訪問研究員の木口恒が作成した。このケースは、経営管理などに関する適切あるいは不適切な処理を例示することを意図したも のではない。また文中において一部敬称を省いている箇所があることをご理解いただきたい。文中の役職に関しては2015年2月時点のものである。尚、作成にあたり、岩渕薬品株式会社 代表取締役社長 岩渕康昭氏、経営企画部長 兼 営業戦略部長 岩渕琢磨氏、経営企画部担当部長 岩渕裕樹氏から資料提供、取材に多大なるご協力をいただいた。ここに感謝したい。(2015年2月)