尾畑酒造株式会社

尾畑酒造株式会社
創業120周年「老舗ベンチャー」、
5代目女性蔵元の挑戦

 2011年(平成23年)9月、尾畑酒造株式会社(以下、尾畑酒造)代表取締役専務の尾畑留美子氏は、佐渡の澄み渡った空と海に想いを巡らせながら、四輪駆動車を走らせた。日本酒業全体を盛り上げ、佐渡と共に同社が発展していくためには、何をするべきなのだろうか。留美子氏は、車の窓越しに、佐渡と日本酒業界の未来を見つめていた。

 尾畑酒造は、1892年(明治25年)創業以来、新潟県佐渡市真野鶴に根差し、佐渡の資源を基に、日本酒の製造、販売を行ってきた。2012年(平成24年)現在、尾畑家の二女である尾畑留美子氏と、夫である平島健たけし氏が5代目蔵元として経営を担っていた。同社の位置する佐渡では、年々観光客が減少しており、大規模な震災が多発していた。

 加えて、国内における日本酒消費量は、年々縮小しており、業界全体で日本酒市場体を創出していく必要があった。留美子氏は、国内の若者や女性に対して働き掛け、日本酒ライトユーザを育てていこうと考えていた。一方、海外市場における日本酒消費量は拡大傾向にあった。2003年(平成15年)当時、夢物語とされていた海外との直接取引を実現し、同氏は、アメリカへの出荷を実現させた。2012年(平成24年)現在、同社の製品は、アメリカ、韓国、シンガポールなど、7カ国に出荷されていた。

 留美子氏は、「老舗のベンチャー」という言葉で自社を表現することがあった。120年の歴史の「今」を担う同氏は、革新していくことの必要性を感じていた。2011年(平成23年)より、佐渡市の廃校になった小学校を、コミュニティスペースとして活用する学校蔵プロジェクトを企画していた。並行して、留美子氏は、自分の中にある考えや企画を、形にしていくことの大切さを感じていた。同社における新しいロングセラーを創るために行動する必要があり、また、様々な娯楽に溢れる昨今、日本酒のあり方自体、考えていかなければならなかった。

ケース教材をダウンロード
パスワードを申請
本ケース教材は、慶應義塾大学総合政策学部准教授の飯盛義徳の監修のもと、SFC政策支援機構の助成を受け、石島紅奈、坂井勇作、奥津慶大、佐藤達朗が作成した。このケースは、経営管理などに関する適切あるいは不適切な処理を例示することを意図したものではない。 また文中において一部敬称を省いている箇所があることをご理解いただきたい。文中の役職に関しては明記していない限り2012年12月現在のものである。なお、作成にあたり、尾畑酒造株式会社代表取締役専務の尾畑留美子氏、代表取締役社長の平島健氏から資料提供、取材に多大なるご協力をいただいた。ここに感謝したい。(2012年12月)